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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)2号 判決

一 請求の原因一ないし四の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。

1 取消事由(1)について

(一) 本願補正により本願考案の出願公告時の実用新案登録請求の範囲に付加された「ると共に該吸込室の吸込口の上縁が連通路より高くない位置に設けられ」との記載が、その文言上、吸込室の吸込口の上縁が連通路と同じ高さに設けられた構成とともに吸込室の吸込口の上縁が連通路より低い位置に設けられた構成をも意味すること、また、右後者の構成が本願出願当初の明細書及び出願公告時の明細書のいずれにも記載されておらず、右各明細書の記載から自明のものでないことは、右連通路をボリユート室と吸込室とを連通路1と解する場合について当事者間に争いがなく、また、これを仮に原告主張のとおり、連通路1とともに、ブラケツトの凹部とボリユート室とを連通する連通路2・2´を含むと解する場合においても、当事者間に争いがない。

(二) 原告は、右補正事項が文言上は前示二つの構成を意味するとしても、補正請求範囲全体において意味をとれば、右補正事項は前示前者の構成を示すものであると主張する。

原告は、右主張の前提として、補正請求範囲が、吸込室上縁、吸込室天井、連通路1、ボリユート室天井、連通路2・2´、吐出口上縁をほぼ水平一直線上に配置する構成を示すものであると述べる。

しかしながら、右のうち連通路2・2´と吐出口上縁との位置関係についてみれば、前示当事者間に争いのない請求の原因二1の補正請求範囲の記載によれば、「前記連通路は吐出口の上縁より高くない位置に配備され」ること、すなわち、連通路2・2´は、原告の主張する吐出口の上縁と同じ高さに配置される場合のみならず、吐出口の上縁より低い位置に配置される場合も補正請求範囲による本願考案の構成に含まれることが明らかであり、このことは、成立に争いのない甲第二、第五号証により認められる本願補正後の明細書の考案の詳細な説明中の「連通路2、2´は吐出口10の上縁より高くないことが好ましい。」との記載からも裏付けられる。

また、吸込室天井とボリユート室天井との位置関係についてみれば、右補正請求範囲の記載上、これをどのような位置関係に置くかを規定した文言はないことが明らかであり、これを原告主張のように水平一直線上に配置する構成と一義的に解釈することはできない。かえつて、前掲甲号各証によれば、右考案の詳細な説明中には「吸込室天井をボリユート室天井より高くないようにしてあれば、A部に溜る空気は殆んど排出される。」との記載があることが認められ、この記載によれば、吸込室天井をボリユート室天井より低い位置に配置することも補正請求範囲に含まれる構成と解される。

したがつて、補正請求範囲及び本願補正後の本願明細書の記載上、原告主張の吸込室上縁以下の各部材が水平一直線上に配置される構成が一義的に示されているとみることはできない。

また、前掲甲号各証により本願補正後の本願明細書の記載を精査しても、本願考案の作用効果が原告主張の右構成のみによつて達成されることを裏付ける記載は認められず、前示吸込室の吸込口の上縁が連通路1又は連通路2・2´より低い位置に設けられた構成を採用した場合にその作用効果を奏することができない理由もこれを見出すことができない。

(三) 以上のとおり、本願補正により付加された記載を吸込室の吸込口の上縁が連通路と同じ高さに設けられた構成のみを示すとする原告の主張は理由がないから、本願補正は、右構成とともに右記載の文言上これに含まれる吸込室の吸込口の上縁が連通路より低い位置に設けられた構成をも付加したものというべきである。

そして、この後者の構成が本願出願当初の明細書及び出願公告時の明細書のいずれにも記載されておらず、右各明細書の記載から自明のものでないことは、右連通路を連通路1と解しても連通路2・2´を含むと解しても、前叙のとおり当事者間に争いがないのであるから、本願補正が実用新案登録請求の範囲を実質上拡張する補正であることは明らかといわなければならない。

したがつて、本願補正を却下した決定は正当であり、これに基づき本願考案の要旨を出願公告時の実用新案登録請求の範囲のとおりとした審決の認定に誤りはない。

2 取消事由(2)について

(一) 成立に争いのない甲第三号証によると、引用例には、引用例の図面(別紙第三図面)第2図に示されるラインポンプにつき、原告が請求の原因五2(一)で引用する各記載があることが認められる。

原告は、右の各記載から右第2図に示されるラインポンプにおいて低圧側開拡部7、高圧側開拡部8は必須の構成であり、連通路11は低圧側開拡部7に、連通路12は高圧側開拡部8に連通し、連通路14は低圧側開拡部7と吸込室とを連通するものであつて、この点で本願考案と相違すると主張する。

そこで、引用例を検討すると、前掲甲第三号証によれば、引用例の実用新案登録請求の範囲には、「両側のパイプラインに吸込管路及び吐出管路を介して連通されたケーシング内に羽根車を収納し、この羽根車の回転軸の軸封部に渦形室の圧力水を導入するようにしたものにおいて、前記軸封部のメカニカルシール又はグランドパツキンの摺動面を通る圧力水導水路を設け、この圧力水導水路を介して前記軸封部を渦形室の吐出管路側高圧部に連通し、且つ前記軸封部を他の圧力水導水路を介して前記渦形室の吸込管路側低圧部に連通し、この低圧部を前記ケーシングに形成した小孔を介して前記吸込管路に連通したことを特徴とするパイプラインポンプ。」と記載されており、また、その考案の詳細な説明の項には、引用例の図面第2、第3図に示す実施例と第4図に示す実施例を説明した後、引用例の考案は右実用新案登録請求の範囲に示す特徴を有するので、「パイプラインポンプがいかなる状態で設置されても、最初の呼び水の際に軸封部内の空気は圧力水導水路を経て吐出管路側に、また小孔を経て吸込管路側に完全に排除できる。また、運転中に回転軸の軸封部には渦形室の吐出管路高圧部から圧力水が導入されるとともにこの導入された圧力水は他の圧力水導水路を介して渦形室の吸込管路側低圧部に流出し、更にケーシングに形成した小孔を介してこれより低圧の吸込管路に流入するから、軸封部に発生した空気溜りやこれに混入した空気は前記圧力水に伴つて、渦形室の低圧部に、更に吸込管路に流入して速やかに排除される」(同号証明細書六頁五ないし一八行)と記載されていること、引用例の図面(別紙第三図面)第2、第3図には低圧側開拡部7は吸込管路側渦形室6の上部に、また、高圧側開拡部8は渦形室6の吐出部6aの上部に各鎖線で示されており、渦形室6と特別の部材で区分された部分ではないことが認められる。

右記載によれば、引用例の低圧側開拡部7は渦形室の吸込管路側低圧部の一部を指し、高圧側開拡部8は渦形室の吐出管路側高圧部の一部を指すことが明らかである。したがつて、引用例の図面第2図のラインポンプにおいて、連通路11・12はブラケツト凹部とボリユート室6とを連通し、連通路14はボリユート室6と吸込室とを連通するものであると認められ、この構成において本願考案と相違する点はないといわなければならない。

(二) 原告はまた、本願考案と先願考案とは作用効果上特に運転時における液体の流れ方が違い、ブラケツト凹部の空気排除の仕方が違う旨主張する。

前掲甲第二号証によれば、出願公告時の本願明細書には、運転時の作用につき、「ポンプの運転時には羽根車5の主板17の上面の液体は、主板17との回転摩擦により回転し、遠心力によつて中心から外方に向かう流れが生じ、再びボリユート室14に戻るため、凹部16の圧力は降下する。従つて連通路2・2´においては水流は第4図、第5図の矢印の如く凹部16に向かう流れが生ずる。」(同号証三欄二四ないし三〇行、別紙第一図面第4、第5図参照)と記載されていることが認められる。この記載によれば、ポンプの運転時、連通路2・2´において水流が凹部16に向かう流れが生じるのは凹部16から右主板17の上面に連通する空隙が存在することが必要であると認められる。この空隙があることにより、主板17との回転摩擦により回転し遠心力によつて中心から外方に向かう流れに従つて凹部16内の液体が主板17の上面に流れ凹部16の圧力が低下し、凹部16と連通する連通路2・2´内の液体が凹部16に向かつて流れることになるのである。ところが、前示出願公告時における本願考案の実用新案登録請求の範囲によれば、本願考案は、凹部16から主板17の上面に連通する右空隙の存在を必須の構成要件としていないことが明らかであり、したがつて、右空隙を備えていない構成を包含すると解しなければならない。そして、本願考案において、右空隙を備えていない構成とした場合、凹部16の圧力降下が生ずることはありえないから、圧力水の流れは連通路2・2´の一方から他方へと向かうことになり、この点で、前掲甲第三号証により認められる先願考案の連通路11・12における液体の流れと異なるところはないと認められる。したがつて、原告の右主張は理由がなく、採用できない。

3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にこれを取り消すべき違法の点は見当たらない。

三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕本願考案の登録請求の範囲は左のとおりである。

1 出願公告時における実用新案登録請求の範囲

隔壁によりボリユート室と吸込室とに区画されたケーシングを備え、メカニカルシールがブラケツトの凹部に設けられ、該凹部の周囲の前記ブラケツトが前記羽根車に近接して突出して突出部を形成しているラインポンプにおいて、前記凹部のメカニカルシールの摺動面より高い位置と、前記突出部の外側の前記ボリユート室とを連通する連通路が前記突出部を水平若しくは凹部に向かつて下向きに貫通して設けられ、前記連通路は吐出口の上縁より高くない位置に配備され、かつ、前記ボリユート室と前記吸込室とを連通する連通路が前記隔壁の頂部に設けられていることを特徴とするラインポンプ。

2 本願補正により補正した実用新案登録請求の範囲(傍線は、補正による付加部分を示す。)

隔壁によりボリユート室と吸込室とに区画されたケーシングを備え、メカニカルシールがブラケツトの凹部に設けられ、該凹部の周囲の前記ブラケツトが前記羽根車に近接して突出して突出部を形成しているラインポンプにおいて、前記凹部のメカニカルシールの摺動面より高い位置と、前記突出部の外側の前記ボリユート室とを連通する連通路が前記突出部を水平若しくは凹部に向かつて下向きに貫通して設けられ、前記連通路は吐出口の上縁より高くない位置に配備され、かつ、前記ボリユート室と前記吸込室とを連通する連通路が前記隔壁の頂部に設けられると共に該吸込室の吸込口の上縁が連通路より高くない位置に設けられていることを特徴とするラインポンプ。

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